ユーザー不在のウェブサイト

私は常日頃、インフォメーション・アーキテクト(Information Architect、以下IA)として、クライアント企業のウェブサイト設計にたずさわっている。立場上、さまざまな企業のウェブ担当者と打合せをする機会が多いのだが、その中でしばしば次のような会話に出くわす。私が「御社のウェブサイトのビジネスニーズは?」と尋ねると、どの企業の担当者からも、「新規顧客を獲得したい、マーケティング機能を高めたい、ブランドを理解させたい」といった明確な答えが返ってくる。一方で「ユーザーニーズは?」と尋ねると、まるで触れてはいけないことに触れてしまったかのように急にトーンダウンしてしまう。そして返ってくるのは例えばこんな答えだ。「自社のサイトにどんなユーザーが来ているのか把握していない。」「ユーザーアンケートは5年前に実施して以来やっていない。」「ターゲットは老若男女すべて。特にターゲットは絞っていない。」これは決して3〜4年前の話ではなく、今現在起こっている話である。このことは、一流企業のウェブサイトであっても、いまだにユーザー不在のウェブサイトが数多く存在している、という事実を示している。
ユーザー不在のウェブサイト、3つの背景

なぜ企業のウェブサイトには、ユーザーという視点がこれほど置き去りにされているのか。背景として以下の3つのケースが考えられる。

1つ目は、ウェブサイトがいまだに自社の情報伝達メディア、しかも一方向的なメディアとしてしか捉えられていないケースだ。情報伝達メディアゆえに、ユーザーが求める情報よりも、自社が伝えたい情報が先立ってしまう。また一方向として捉えるがゆえに、ユーザーがどう反応し、どう行動するのか、というインタラクティブ性を見逃してしまう。結果的にウェブサイト全体から、マーケットイン的な発想が欠落してしまう。
2つ目は、次々と現れるウェブの流行に各企業が惑わされてしまっているケースだ。ウェブサイトは日々様々なアイディアや流行が生まれ、メディアの姿自体が変わり続ける稀有なメディアだ。そんな特色が災いして、各企業がその時々の流行や最新の技術をやみくもに追い求めてしまうケースがよくある。近年であれば、SNSやブログをやれば他社に遅れずに済む、期待できる結果が得られる、といった幻想を抱いてしまう。このような企業に私が危惧せざるを得ないのは、「ユーザーにこういう体験をさせたいから。」「こういうニーズを適えたいから。」という根本がすっかり抜け落ちてしまっている点である。
3つ目は、企業側が自社サイトのユーザーを正しく把握していないケースだ。例えばこんな声を聞く。「サイトにやって来るユーザーは不特定多数。気まぐれでやってくるユーザーもいる。彼らのニーズを知ることなんてできない。」おそらくこういった担当者には、ユーザーがぼんやりとひとつの塊にしか映っていないのだろう。しかし私の考えは逆である。企業のウェブサイトを訪れるユーザーはかなり固定ユーザーが多く、明確なニーズを持っていると考えている。著名なポータルサイトやECサイトならまだしも、数ある企業サイトの中から1つを選び、さらに膨大なページの中から特定のページを選んで閲覧するという行為自体、彼らの明確なニーズの現れである。正しく知ろうとするかしないかは、企業側の意識の問題である。
ユーザーを正しく理解していないことの弊害

ユーザーを正しく理解していないと、どんな弊害があるのか。一言で言うと、ウェブサイトが、リアルなユーザーのためではなく、企業側に都合の良い架空のユーザーのために制作されてしまう点だ。ユーザーは企業側が作りたいサイトを実現するための「操り人形」でしかなくなってしまう。結果として生まれるものは、組織の縦割り構造がそのまま反映された製品ページや、最新のプラグインが入っていないと表示されないトップページや、閑古鳥が鳴いているSNSサイトだったりする。これらは当然ながら通常のリアルなユーザーにとっては使いづらく、魅力を感じられないサイトだろう。このようなサイトが企業にとっては致命的であることは明白だ。
ウェブサイト開発にもユーザー調査を

では、ユーザーを知るために企業は何をすべきか。まず大前提として必要なことは、日頃からユーザーの声を聞こうとする意識を持つことである。ユーザーのリアルな声を聞くことを躊躇する企業は多い。しかし、その姿勢自体が既にユーザーに「クローズドな会社」というマイナスの印象を与えていることに今すぐ気付くべきである。その上で具体策として必要なことは、ユーザーのニーズを知るための施策を適切に行うことだ。大きく以下の3つの選択肢がある。
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1.
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ウェブサイト設計前のユーザー調査
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2.
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ウェブサイト設計中、もしくは公開後のユーザビリティテスト
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3.
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ウェブサイト公開後のアクセスログ分析
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この中で私が、ユーザーのニーズを知るという意味で最も重要視しているのは、上記1. のユーザー調査である。設計に入る前に、直接ユーザーからアンケートやヒアリングで意見を聴取するものである。なぜユーザー調査を重要視するのか。一言で言うと、現状のサイトの構造やデザインの良し悪しに左右されずに、純粋にユーザーのニーズを探れるからだ。商品開発やマス広告開発ではごく当たり前にユーザー調査が行われている。しかしながら、ウェブサイト開発にユーザー調査を役立てている企業はいまだに少ないのが現状だ。
ユーザー調査で成功した某イントラサイトのリニューアル事例

ネットイヤーグループがユーザー調査を実施して、サイトのリニューアルを成功させた事例がある。某企業のイントラサイトのリニューアルである。クライアントは長年使われていた自社イントラサイトのトップページのユーザビリティを改善したい、という課題を持っていた。そこで私たちはユーザーのニーズを正確に把握するために、従業員1000人へのオンラインアンケートと、5人へのヒアリングを実施した。その結果、ユーザビリティテストやログ分析からは得られない数々の示唆が得られた。
1つがユーザーの「慣れ」の問題である。従業員の大半はこのイントラサイトを長年使っており、心理面・操作面での「慣れ」が生じていた。その「慣れ」がサイトの問題を許容してしまい、その結果初心者のユーザーには使いづらいサイトになっていたのである。そこで私たちが出した方針は、「慣れというものに依存しない、初めて使うユーザーにも直感的に分かるデザインやラベリング」というものだった。
また、日々の業務との連携不足も浮き彫りになった。ユーザーの1日の業務をヒアリングした結果、職種ごとにほぼ共通の業務の流れが存在し、そのプロセスの中でサイトを利用しているということがわかった。それにも関わらず、その流れが画面には全く生かされてはいなかった。そこから「業務の流れに沿った画面レイアウト」というコンセプトが生まれた。
さらに、ユーザーはイントラサイトというもの自体に、デザイン性よりも機能性・使いやすさを圧倒的に求めている、ということがわかった。そこで当時のカラフルな画面は廃止し、見やすさや直感的な分かりやすさを重視した画面設計とした。
ユーザー調査の最大の収穫は、現状サイトの問題以前に、ユーザーはそもそもどのような人たちで、どのような業務の中でサイトを利用し、どのようなニーズを持っているのか、といった部分を明らかにできたことだ。そのことが純粋なユーザー視点でサイトのあるべき姿を描くことにつながった。こうした経緯を経て、同社のイントラサイトは従業員から高い満足をいただけるサイトへと生まれ変わったのである。
また、調査は思わぬ効果も残した。調査報告書を始め、さまざまな数値的データ、ユーザーの声がクライアントの社内を説得する材料として強く機能したほか、本件とは別の場面でも利用されるなど、その企業にとって貴重な財産となったのである。
ユーザーの声を聞いてみませんか?

以上が、ユーザーを知ることの重要性と、その手法としてのユーザー調査の効果である。ウェブの設計を担当するIAとして誤解を恐れずに言えば、ユーザーをしっかり把握できれば、そのウェブサイトの設計はほとんどできたも同然だ。必要な情報のほとんどはユーザーが教えてくれるからだ。一方企業側のビジネスニーズも、ユーザーのニーズが満たされてこそ実現するはずである。いかなるウェブサイトも、まずユーザーありきである。ユーザーたちの声には、御社のウェブサイトを劇的に変える素晴らしいヒントが隠されているはずだ。さあ、今すぐ私たちと一緒に、御社のウェブサイトを訪れるユーザーの声を聞いてみませんか。