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セミナー・ナレッジコラム


2007年

ウェブにおけるブランディング施策 (前編)


ネットイヤーグループ株式会社
ナレッジセンター
クリエイティブディレクター/インフォメーションアーキテクト
宮村和実


はじめに

ブランディング施策は、ウェブの中だけで行うものだけでなく、ウェブ以外も含めた様々なコンタクトポイントを意識する必要があります。ブランドを体現したトーン&マナーやコンテキストの提供、企画展開が重要になってきますが、それらをトータルに行えている例は少ないと言えるでしょう。
自動車業界はそういった例が見られる数少ない業界ですが、その中でもよくコントロールされていると感じた MINI について、いろいろと感じた点をご紹介したいと思います。トータルなブランド体験の提供だけでなく、今まさに以前の MINI から新しい MINI へとスイッチングさせている段階のため、その手法も含め、前編でご紹介いたします。
後編では、ユーザーとともにブランドを醸成していくための施策をウェブにおける3つの手法としてまとめ、様々な一般事例を見ていき、何が重要なのかを考えたいと思います。


MINI ブランドについて


わたしは車が好きで、 Mini という車に乗っています。車が好きな方は沢山いらっしゃいますし、高額な商品ということもあって、さまざまなブランドが存在しています。フェラーリやらランボルギーニやらジャグワァやらアストンマーチンやらロータスやら...。
そんな中に、みなさんご存知の MINI という車があります。先ほどわたしは Mini と表記しましたが、こちらは MINI ...。ちょっと違いますね?何が違うのでしょうか。
実は Mini は昔のミニ、MINI は新しい BMW のミニを指すようになっています。ミニというブランドは、 1959年にサー・アレック・イシゴニスという一人の天才的開発者によって生みだされました。2000年に至るまでの 40年間、ほぼ基本設計が変わらないまま世界中から愛され続けた車そのものです。そしてそのブランドを買い取った BMW によって現代に合わせて新しく解釈されなおし、今世界中の多くのユーザーに受け容れられているプレミアム・コンパクトカーそのものでもあります。
ミニというブランドの中には、サー・アレック・イシゴニスが生みだした思想を基本としながら 50年近くも脈々と続いている大きなミニ・ブランドがあります。そこをベースとして、大衆の為の車であり本物のコンパクト&スポーツカーである2000年以前の Mini ブランドと、2000年以降のプレミアムなコンパクトカーの MINI ブランドの2つが存在していると言えるでしょう。


MINI のブランド展開におけるよいポイント

■ メディアを超えてトーン&マナーが徹底している ■

さまざまな紙媒体での展開(雑誌や、パンフレット、リーフレット、ハガキなど)もさることながら、ウェブサイトも同様のトーン&マナーを展開しており、それが徹底されています。
黒をベースとして、太い枠線によるエリアの強調などを行い、シックだけれどもポップな、大人のカジュアルさをうまく高級感を出しながら演出しています。また、コピーワークも同様です。キャッチーなキャッチコピー、説明文も単なる説明だけではない人々の心をくすぐる表現などを行っています(例:「 MINI は街中で人々の注目を集めるだけではありません。」「いつでも、あなた好みの MINI で走りを楽しめるように」など)。
そして、店舗デザインそのものも、同様のトーン&マナーを展開しており、MINI を包むもの、MINI を媒介するものすべてを、統一したブランドとして力強く表現できています。そこには、まったくちぐはぐなところがありません。完璧に MINI という世界を伝え、体験させる事ができていると言えるでしょう。 もちろん、その中心にある MINI 本体の設計、デザイン、パッケージング、実際の走りは言うまでもありません。
トーン&マナーの徹底は、ブランディングにおいては基本中の基本と言えますが、ここまで徹底しているケースはなかなかありません。Apple社もこれを徹底できている希有な企業です。

■ ブランドの世界観に沿ったコンテキストを提供できている ■

トーン&マナーの極限までの徹底により、ユーザー側には揺るぎない MINI の世界観が醸成されていますが、その世界観のコンテキスト(文脈)に沿った体験を、さまざまな点から提供できています。
アクセサリーやアパレルの展開もそうですが、MINI のある生活にあった音楽を集めたCDを雑誌とともに配布しているなど、生活の中にアンビエントな形で MINI という世界観を常在させることができるようにしています。その中にいることが "気持ちいい″とか "ステキ″などと感じさせられる質があります。
それだけではなく、ユーザーに対してサービスを提供する際も、うまく演出しています。
車検整備のお知らせでは、MINI がお風呂に入っているようなグラフィックとともに「たまには MINI を入浴させませんか?」とメンテナンスやリフレッシュを促すリーフレットを送ってきます。「最近忙しくてかまってあげられていないし、洗車もしてあげていないなぁ」と思っているところにこのようなものが届くと、「 MINI ちゃんをリフレッシュさせてあげなくっちゃ!」と思うわけです(女性オーナーは特に)。メーカーもユーザーも、ある種MINI を擬人化した表現をする事で、MINI という世界観の上で擬似的なお芝居を楽しめるようになっています。
ウェブサイトでは、 MINIレジェンドやモンテカルロラリーなどのコンテンツで歴史やマインドを伝達したり、ディーラーサービスやオーナーズラウンジなど、様々なサービスの入口としても機能するようになっています。

■ ユーザーの心を捕まえる、ユーザーを巻き込むプロモーションを仕掛けている ■

1年に一度、富士スピードウェイで行われる MINI の祭典 MINI Connection (たくさんの MINI オーナーが自身の MINI とともに集まります)や、新しい MINI の発売におけるウェブでのバイラルキャンペーンなど、リアルやネット含めて様々なプロモーションを仕掛けています(ネットにおけるブランディング施策の好例については、次の項目で別途掘り下げたいと思います)。
それらによって、MINI のあるライフスタイルをより楽しいものに仕立て、オーナーをより離さないようにしていますし、オーナーではないユーザーをオーナー候補に変えていく効果も生みだしています。


MINI から NEW MINI へ。ユーザーを巻き込んだブランディング施策

去年から今年にかけて、MINI は大きく変貌を遂げました。エンジンやシャーシ、ドライビング性能、安全性能などを新しく一新したのです。2000年から2006年までの MINI を初代の MINI とするならば、2007年からの MINI は2代目の MINI 。初代MINI を「 MINI 」、2代目MINI を「 NEW MINI 」と呼ぶようになっています。
そのような変貌を遂げた為、MINI ブランドをウェブサイトで展開するMINI.jp
http://www.mini.jp/ )では今年さまざまな施策を展開しています。
新しい2代目MINI は、ユーザー(初代のオーナーやこれからのオーナー候補)に受け入れられるものなのかどうかが鍵となります。初代オーナーは複雑な心境の方も多く、MINI 雑誌や SNS などでの発言には「自分たちの今までの MINI がいい」というような発言が見受けられました。今までの MINI を愛しているが故に、若干2代目MINI に排他的な心境をもたれる方が多かったように感じられます(古い Mini に乗る人間からすれば、どちらもあまり変わらないように見えますが...)。また、これからのオーナー候補たちは、今までの MINI を買おうか、それとも新しい MINI を買おうか、そういった発言なども踏まえつつ、迷っていた方もいらっしゃいました。
総じて、「 MINI が新しく変わってしまうらしいけれど、大丈夫なんだろうか?」という不安があったと言えます。

そこで

1.
2代目 MINI の誕生はとても歓迎すべきことで、とても MINI らしい楽しい出来事。
2.
MINI は新しくなっていろいろ変わったけれど、やっぱり MINI だ!
3.
なので2代目 MINI もみんな好きになる。

というようなユーザー体験を与えるとよいと考えられます。
仕掛けられた施策の第1弾は「 MISSING! THE NEW MINI!」というバイラルキャンペーンでした。

MISSING!THE NEW MINI!
http://www.mini.jp/missing/
フェリーで日本に初上陸を果たした NEW MINI たち、というだけでも、みんな興味があるのに、その中の1台が無人にも関わらず勝手にエンジンがかかって逃げ出してしまった!その現場にはタイヤ痕による謎のメッセージが残されていた。みんなで情報を集めて NEW MINI を捜査しよう!というもの。プロモーションサイト+ブログパーツ+ユーザーブログにより、展開する仕組みです。

プロモーションサイト側では以下の展開が行われました。


NEW MINI が逃げ出す、という擬人的かわいさをフックにしてユーザーの心をつかむ。
逃げ出した NEW MINI が残した足跡を見つけ、キーワードを集める。
数日経つと新しい情報がわかるため、ユーザーはある期間の間何度もサイトを訪れる事になる。
RSS により新しい情報を逃さずチェックできるため、再訪への障壁を下げている。


逃げ出した NEW MINI の目撃情報などと絡めて、NEW MINI 自体の新しい機能や魅力などの特徴を小出しにして提供している。
何度もサイトを訪れている間に、ユーザーは NEW MINI についての理解を無理なく深める事ができ、ファンになっていく。
キャンペーンの告知と流入を目的とした楽しそうなブログパーツを提供する。


アムステルダムで行われる MINI の祭典「MINI UNITED 2007」への旅行が抽選であたるため、長期的なキャンペーンに継続的に参加し続けるモチベーションを維持する事が出来る。

ブログパーツ/ユーザーのブログ書き込みでは以下の展開が行われました。

ユーザーがブログにブログパーツを掲載しキャンペーンを紹介する。
クリックすると NEW MINI がブログ上を走って逃げ出す。
その後、NEW MINI 捜査協力依頼画面が表示される。
この記事やブログパーツを見た他の人も、参加・紹介したくなる。
ブログパーツが掲載されている間は継続的にキャンペーンへの流入機会が発生する。

このような形で、「 MISSING! THE NEW MINI!」は NEW MINI 発売日の3月2日(ミニの日)に無事捕獲されて終了しました。「発売日までの間に、 NEW MINI の最新情報を追いかける」というユーザー状況を見極め、「本当に NEW MINI を追いかけさせる」というメタファを被せたユーザー体験を与えていることが秀逸だと言えるでしょう。
そして実はその裏では、『ユーザーを巻き込みながら、 MINI から NEW MINI へのスイッチングを心理的に行わせている(今までの MINI のブランドから新しく変化していく部分を、ユーザーにうまく受け入れさせ、適応させている)』という、ブランドとしての大きな目的をうまく達成できています。そこが重要なポイントでした。

現時点では、第2弾の「 MINI < NEW MINI 」というポップなテイストでのキャンペーンを展開しているようです。
NEW MINI へとよりフィットさせる施策を行っており、ユーザーを成長させるための長期的な視野を持って、 MINI から NEW MINI への誘導を行っていると考えられます。
このように、MINI というブランドは、MINI.jp とともにユーザーをうまく巻き込みながら、ブランドのスイッチングや醸成を行えていると言えるでしょう。

後編では、ユーザーを巻き込む3つの手法をご紹介していきたいと思います。

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