近年のコーポレートサイトは、90年代前半のインターネット黎明期とは異なり、非常に充実したコンテンツを内包するに至っています。

最初期では、コーポレートサイトはただ会社の存在と紹介をするにとどまり、会社案内としての紙媒体のコピーにしか過ぎなかったものが、人事が採用情報の告知とコンタクト先としてのコミュニケーションツールとして活用できることに気づきました。また、会社案内の延長線上として商材を紹介する媒体として徐々に情報を深めだし、サポートのコンタクト先の告知や、事前情報の提示などに使えることに気づき......と、体裁を整えていきました。

その後は Eコマースの仕組みが登場して、ウェブサイト内で商材が直に消費者(ないしは取引先)に売れるようになり、商材をよりしっかりと説明することでリアルの店頭と同じような役割を担わせられることに気づき、顧客の行動がウェブサイト上でわかるようになったり、顧客の情報が蓄積できるようになり、マーケティングとして活用できる一大チャネルに成長。サポートセンターもサポートに至る前の
FAQ の充実やダウンロードサービスなどを行うようになり、顧客との接点となるダイレクトで太いパイプとしてコーポレートサイトは成長してきました。ウェブを起点にしたプロモーションも行われるようになり、複数のメディア(ウェブもその一つ)を連携させた広告・プロモーション・キャンペーンが実施され、その効果が測定され、よりよい施策に最適化を行うようになりました。数年前に、TOYOTAが自社のウェブサイトは一大メディアである、と言ったように、そういった成長からメディアとしての存在価値も大きくなりました。
IR については早い段階から活用されてきていましたが、数年前から CSR などの企業活動に関しても、積極的に活用されるようになりました。

様々なユーザーニーズやクライアントニーズ、時流からの要求などを取り込みながら、ウェブサイトは成長してきたわけですが、それらはコンテンツ及び機能の集合体という形で存在しています。巨大な企業では、コーポレートサイトのページ数は数万から数十万ページに至るメガ・ウェブサイトもあり、そのコンテンツの種類と量は、膨大なものに至っているといえるでしょう。
しかし、それらのコンテンツは十分に活用されているとはいえないかもしれません。 コンテンツは企業のウェブサイトという形式に縛られ、ユーザーが利用したいように利用できていない、もしくはもっと活用される可能性があるのに、そのパフォーマンスを発揮できていない可能性があります。
■メディアがユーザーにシフトした時代
企業側が生み出してきたコンテンツという観点とは逆に、一般的な人びと(消費者など)が生み出してきた活きた情報群があります。掲示板やコミュニティ、ブログといった簡単に情報をやりとりできる場所で、それらはスピーディかつ大量に生成され、共有され(そして時には新しい視点や考え方が発生し)、その情報を元に判断とアクションが行われています。

人びとは、企業そのものやその企業の商材などを、自分たちのユーザー経験を共有することで裏を取り合い、ポジティブもしくはネガティブな判断を行っています。ポジティブな面では、よい評価を共有したり、具体的にどういうところが良いのかを深掘りしたり、さらには他の人に同じ経験をさせようと引き込もうとします。ネガティブな面では、もちろん逆の行為を行います。ユーザーたちが生み出す情報はコミュニケーションという行為を媒体として連鎖し、変容しながら波及していきます。

企業は自分たちが正しい情報を出していればいい、自分たちの良さをよりわかるように伝えればいい、それがよりよいユーザーとのコミュニケーションになり、自分たちにとってロイヤリティの高いユーザーを増やすきっかけになるはず、と思ってコンテンツを充実させてきましたが、今はそう単純な構造だけではありません。コーポレートサイトなどの企業側のメディアに匹敵するかそれを超えるようなメディアがユーザー側に生まれているのが現状です(そこに初期から着目して発展してきたのは価格.comのような価格調査サイトからユーザー評価サイトへと発展してきたウェブサービスや、Q&A
をやりとりできるサービスなどでしょう)。

今はコミュニケーションの時代であり、メディアがユーザーにシフトした時代、といえます(実際には、メディアはメディアとしての価値を持ち続けていますが、ユーザーもその役割の一端を担ってきていますね)。CGM
という言葉が生まれてから、本当はちょっとしか経っていないはずなのに、それ以前の時代がずいぶん昔に感じます。そんな状況の中で、企業が生み出すコンテンツとユーザーが生み出すメディアとしての情報たちは、互いが関係性を持って発展するという必然性が強くなってきています。
企業は、ユーザーの声に直面できているというこの状況をもっと活用していくべきです。ユーザーはもっといろいろな情報ソースを様々なタイミングで活用したい、と考えており、企業側の情報もユーザーたち側の情報も同じように必要としています。ユーザーは昔のように一方的に企業側のメッセージを受け止めて、それを受け入れる、ということはありません。企業側からもユーザー側からも様々な情報を多角的に取得して、自分自身の考えをそこから整理して判断するという自立性が生じてきていますし、そうした自立したユーザーが他者に情報を与えます。ロイヤリティの高いカスタマーになったとしても、その自立性は失わず、企業と対等に存在し、愛情だけでなく厳しい目を向け続けているといえるでしょう。

そのような状況では、今まで以上に、企業はユーザーに情報を受け取ってもらいやすくする努力をしなければいけません。そして、ユーザーがユーザー同士やユーザーと企業同士で意見を言い合える土壌を作り出さなければいけません。その中から、新しい価値や経験を生み出せるようにしていけるよう、大きな視野で、ユーザーと企業の関係性を捉えていく必要があるでしょう。

コーポレートサイトは膨大な情報をコンテンツとして内包するに至っていますが、その中には非常にすばらしいコンテンツがあるにもかかわらず、ユーザーに継続的に受け取ってもらえていないものが非常に多いと考えられます。最近、あるコーポレートサイトに関する賞の評価メンバーをさせていただいて実感しましたが、コンテンツ自体は非常にすばらしいものがあるにもかかわらず、ユーザーが情報を活用・交流させていくプロセスに乗せられていないケースが多く、もったいないことだと感じました(様々な事情・状況による結果かと思われますので、実際は様々な可能性は検討されているのだと思います)。コンテンツを今までのウェブサイトの単純な枠組みから解放し、様々な状態で様々な人たちが利用できるようにすれば、もっとよいのに、と思ったのです。

コーポレートサイトで情報を「提供する」、という視点はそろそろ脱して、ユーザーに情報をどんどん「ゆだねていく」、という視点に変えていく必要があるでしょう。ユーザーは情報を発信し合うことで経験や観点を交流させています。そして、さらにそこからコンテンツを発生させ、新たな流れを生み出していますが、企業側が生み出すコンテンツもその輪の中に同じように入っていかなければいけません。ニュースサイトなどはそのあたりに敏感で、RSS
やソーシャルブックマーク、トラックバックへの対応などが非常に早い段階から行われていましたが、コーポレートサイトではなかなかそこが徹底されていません。現在はやっとコーポレートサイトの
RSS が一般化し、ブログパーツの活用が一部のコンテンツで行われている、という状況といえます。「ゆだねる」ということは、すなわち、コンテンツをいろんな意味で解放する、ということです。

後編では、コンテンツの解放を4つの段階に整理して事例を紹介したいと思います。