『ウェブデザインの思考法』出版記念セミナーレポート
2019年7月25日に開催したセミナーのレポートをお届けします。

インターネットやウェブ制作の市場は成熟しつつありますが、肝心のウェブデザインの品質やトーンについては、明確な判断基準はありません。そのデザインが選ばれた理由も、良いウェブデザインの条件も、依然として属人的かつ感覚的にとらえられています。
ウェブデザインを主観や感情に流されることなく、さまざまなステークホルダーに判断してもらうには、どのように提案すればいいのでしょうか。デジタルマーケティングの深化と拡大はウェブデザインにどのような影響を及ぼし、その中でデザイナーはどう市場価値を高めていけばいいのでしょうか。
本セミナーでは、以下3名が鼎談。「ウェブデザインの質を高める論理的思考法 ~デザインの共通言語の重要性~」をテーマに議論を重ねました。
ウェブデザインの共通言語を確立することで、正しい評価ができる

まずは、金が書籍『ウェブデザインの思考法』を書くきっかけとなった、ウェブデザインが抱える課題について、説明します。
これらを踏まえて、金が目指したのが「ウェブデザインの言語化・体系化」です。ウェブデザインにおける共通言語を確立することで、デザインにおけるコミュニケーションの円滑化を目指します。また、本書のコンセプトとなっているのが、「『機能性』と『情緒性』によるウェブデザインの分類と体系化」。ウェブデザインとは、何らかの問題解決のために、ユーザーインターフェース上に「機能性」と「情緒性」を設計することというのが、その考え方です。
次に取り上げたのが、プロジェクトにおけるデザイン進行のステップと過去の事例。どのようにデザインの基本方針や詳細方針を決定し、ビジュアルサンプルで可視化するのか、具体的に解説していきます。特徴的なのが、属人的かつ感覚的になりやすい、デザインの情緒性のとらえ方。装飾性、成熟度といった6つの指標を使い、関係者が認識を共有していくとのこと。
デザインとは、マーケティングの1つの要素

株式会社ベイジ代表の枌谷氏も、ベイジの企業サイト制作のワークフローについて説明します。ここでポイントとなるのが、UXワークショップや徹底した定性・定量調査など、ワークフローの前段、つまりデザインに至るまでのクライアントとの合意形成です。
「デザインとは、マーケティングのファンクション(機能)ではないだろうか。文字の大きさやボタンの形などで、何かの意思決定のきっかけを作る等、デザインもマーケティングの中で機能しなければいけない。また、デザインは我々専門家に任せてもらったほうが良いものができると、クライアントからしっかり信頼を得ることが重要」と、枌谷氏は強調します。
さらに金は「『ウェブデザインの思考法』に記した理論はいわばデザインの出汁みたいなもの。この理論は他にも活用できる」と続けます。具体的な活用方法は以下のとおり。
<コンポーネントベースの設計>
機能性と情緒性を設定したら、デザイン要素を通じてコンポーネント(部品)に設計。その組み合わせでページを構築すると、オペレーションが効率的になる。特にCMSとのシームレスな設計・開発が求められるプロジェクトにおいては、この方法が有効。
<高速PDCAの対応>
情緒性の軸ごとにビジュアルのトーンを変えたり、機能性を数値化したりと、ビジュアルデザインを定性的に評価し、ビジュアル面で計画的かつ効率的なPDCAの運用ができるようになる。
<言語化による、ウェブデザインへの理解>
デザイナーの感覚を言語化し、教育・啓蒙に役立てる。ディレクターやクライアントなど、非デザイナーへのデザイン啓蒙にも応用できる。
デザインとマーケティングはつながっている
そして鼎談は、デジタルマーケティングの深化とウェブデザインのこれからへと続きます。
金:マルチデバイス時代のウェブデザインにおいて、ある意味「神は細部に宿らない」と言えます。デザインの活躍の場を広げるには、細部にこだわりすぎるより、もう少し大きな視点でアートディレクションに意識的にならなくてはと思います。
角竹:属人的になりやすい情緒性も数値にして、バリエーションで検証できるようにしたのはわかりやすいですね。この軸は何%と伝えれば、とらえやすいはず。
金:言語化することで、デザインする側と評価する側のコミュニケーションがスムーズになるはずです。今後はそうなることを期待したいです。
枌谷:ウェブデザインはグラフィックデザインから派生して独自の進化をしてきたデザインジャンルですが、マルチデバイスの時代になり、グラフィックデザインからの「離脱」は、より加速しましたね。デバイスによって画面サイズは全然違うので、細かいレイアウト調整をしても意味がなくなることが多いし、様々な環境で閲覧するために光や明るさの条件が変わり、細かな色調整も意味がない。結果、素早く表⽰できるよう動作を軽くする、細かなアニメーションで処理待ちのストレスを減らすなど、デザインとしてこだわるべき領域が変化したと感じます。
角竹:枌谷さんは、これからのウェブデザインはどうなると思いますか?
枌谷:未来は読めないので、私自身はあまり考えないようにしています。2000年代のFlash全盛期には、Flashは長くウェブの主流であり続けると誰もが思っていましたが、あっという間に衰退しましたよね。PCをベースにしたデザインも、あっという間にモバイルファーストになってしまいました。そうかと思えば、タブレットが出てきたころ、これはかなり広まってデスクトップPCがなくなるぞ、くらいに言われましたが、未だそうはなってないですよね。このようにITの5年後の姿は正確には誰も読めない。だから私たちは、今やるべきことをしっかりやる、でいいのだと思います。
角竹:枌谷さんは、デザイナー経験をお持ちですが、それが役立っていると感じますか?
枌谷:私は今、会社経営、組織づくり、マーケティング、コピーライティングなど、さまざまな領域の仕事をしていますが、どの仕事をしていても、デザインで学んだことはかなり役⽴っている実感があります。いわゆるデザイン思考に限らず、デザインを完成させるために必要なあらゆる発想法・思考法は、様々なビジネスに応用できます。ただ、そのためには抽象化能力が必要です。デザインの知見を抽象化して転用できるスキルさえあれば、デザイナーは、あらゆるビジネスでもっともっと活躍できるはずです。読めない未来を読もうとするより、今の目の前の仕事に向き合いながら、デザインのスキルを抽象化する力を鍛える方が⼤切ではないかな、と私は思っています。
金:視点をメタ化するということでしょうか。
枌谷:そうなんですよ。例えば、Flashはもう衰退してしまいましたが、Flashを通じて学んだモーションの知見は、UIのマイクロアニメーションを考えたりディレクションしたりするのに役⽴っています。技術自体は陳腐化しても、そこには必ず汎用的なスキルが含まれており、それを活かせば、ちゃんと強みにできるはずです。
角竹:マーケティングとデザインはどうでしょうか。それぞれの領域は分かれていると感じますか?
枌谷:デザイナーからマーケティング領域に踏み出していった私にとって、デザインとマーケティングの境界は曖昧であり、多くの共通点があると思っています。ただしだからといって、デザイナーがマーケターになるのは、簡単なことではありません。共通点がある一方、違う部分もたくさんあるはずです。多くのデザイナーがマーケティングに興味があるといいながら、実際にマーケティングの実務を担当しうるスキルを身に付けている人がほとんどいないことからも、その間に壁を感じます。ただそれでも、抽象化すれば、ある程度のところまでは行けるのではと、信じています。例えば、ファーストビューをどんなレイアウトにするのか、グローバルナビゲーションをどういう並びにするのか、それを決定するには、ターゲティングと確率の考えを用います。この思考自体は、まさにマーケティングそのものなんですよね。
角竹:デザイナーにマーケターとしての視点を持たせるための教育はしているのでしょうか?
枌谷:マーケティングを学ぶには時間がかかるものですが、ベイジではあらゆることをメソッド化することで、マーケティング思考のデザイナーを育てられないかとトライしています。例えば、実務未経験のデザイナーとして入社しても最低限の知識が身に付く、『デザインドリル』みたいなものもあります。またオペレーションだけでなく、考え方や価値観を定義したデザイン哲学というものも用意しています。
そして、参加者からの質問コーナーへ。トップページのデザインを複数提案する理由、クライアントを理解するうえで気をつけているポイント、デザイナーのキャリアプランなど、さまざまな質問があり、最後まで白熱した議論は続きました。
セミナーに参加したお客さまの声
金が著書を務めた「ウェブデザインの思考法」はこちらからご購入いただけます。
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