WebサイトにおけるKPIの正しい設計方法
UXデザイン部の山田です。
今回はKPIについて、考えてみます。
KPIとは、「Key Performance Indicator」の頭文字を取った言葉で、日本語では「主要業績指標」などと呼ばれます。KPIは主に企業の業績や目標達成度合いを表すための指標なのですが、アクセス解析ツールが世に出だした2000年代の後半あたりから、Webの世界でも注目される考え方になりました。
ただ、経営指標としてのKPIとWebサイトを評価するためのKPIとは、少し考え方が異なります。むしろ、WebサイトにおけるKPIの考え方が特殊なので、その考え方を抑えておかないと、上手くKPIを設計する事はできませんし、もちろんそれを活用したサイト運用もできないのです。
ここでは、まずはWebサイトにおけるKPIの立て方をご紹介します。
KPI設計に関するよくある誤解
KPIは、それ単体では何の意味もないただの指標です。
よく「KPIリスト作成しました!」などと言って、エクセルで作ったリストを見せられることがありますが、「で?」って思わず言いそうになってしまいます。
Webマーケの世界において「KPI」という言葉だけがバズワードの如く蔓延してしまい、そのため「KPI=指標リスト」という誤解をされている方も未だに多いようですが、本質的にはそうではありません。
つまり、そのKPIはWebサイトのゴールにどう影響するのか?なぜ数ある指標の中からその指標リストに行きついたのか?その数値が上がる(もしくは下がる)と何が良いのか(悪いのか)が分からない単なるリストだと、そのリスト見せられたところで当然よく分からないですし、そのまま忘れ去られてしまう結末になる事でしょう。
そうならないためにまず押さえておきたいのはKPIとセットで「KGI」と「KSF」を必ず定義しておくという事です。
KGIは「Key Goal Indicator」の略で、日本語では重要目標達成指標と言います。これをWebサイトにおけるゴール指標と定義し、ECサイトなら”売上”、リードジェネレーションサイトなら”コンバージョン”というように、最も重要なゴール地点の達成状況を数値化したものとなります。これは1サイトにおいて、1指標が理想です。
また、KSFは「Key Success Factor」の略で、一般的には重要成功要因と呼ばれますが、これはKGIを良化していく上での要素や条件と考えると分かりやすいでしょう。
例えば、安さと品質を売りにした住宅メーカーのWebサイトのKGIが「資料請求数」だったとします。
そのKGIを良化するためのKSFが「他メーカーと比較する事で自社の優位性を感じてもらうこと」であれば、「他社との料金比較表」ページの閲覧数や「住宅メーカー比較」などの検索流入数がKPIになるでしょうし、「不安感を払拭すること」というKSFであれば、「耐震性能テストの動画」ページの閲覧がKPIになるかもしれません。
このKGI→KSF→KPIの関係性が明示されていて、それらがきちんと定義されている事により、KPIリストは”ただの指標リスト”ではなく、意味のあるリストになります。
KPIツリーで満足してはいけない
「KPIツリーを使ってKPIを設計する」というのも、誤解を招きやすい考え方です。
確かに経営指標のように、財務指標を細かくブレークダウンする事で問題を把握できるものであれば、トップダウン式でツリーを組んでいくのも良いですが、Webの世界では単純に指標を細かくすれば良いというものではありません。
WebサイトにおけるKGIは、そのサイトを利用するユーザー行動が集約されたものであるため、ユーザー中心の考えに基づいた成功要因(Success Factor)を導き出さなければ、良いKPIは生み出されず、KSFを無視したKPI作成は単なる数字遊びということになります。
もちろんデータ分析からKGIと相関性の高い指標を導き出し、それらをKPIとする方法は有効ですが、その指標がKGIと因果関係になっている事を証明するのは非常に難しいですし、それらを良化するための施策が部分最適化に陥りやすいという面もあります。
図1:よくあるKPIツリーの図
※KPIツリーを作成し、数字だけを並べて満足するケースも多い
図2:KSFに基づくKPIツリー
※KSFが明確になっている事で、全体最適化に向けた施策に落ちやすい。
また、KPIツリーを使ってKPI指標を立てる考え方は、とても理解しやすく、設計自体も簡単なのですが、作る事が目的になってしまっては本末転倒です。
KGIからKSFを導き出し、KPIに落とし込むためにまず大事なのは、サイト利用者のことを深く知り、その行動を捉える事です。
どんなユーザーに来訪してもらいたいか(=ターゲットユーザー)、その人は何を目的に来訪するか(ゴール)、そのためにどんな行動をして欲しいか(=シナリオ)を明確に定義してあげる必要があり、それを考える事自体がKSFの検討になるのです。
KSFをあぶり出し、KPIを導き出すための3つのテクニック
KSFを考える上で、ターゲットユーザー(もしくはペルソナ)を設定し、そのユーザーの行動シナリオを描く必要があると述べましたが、そのための手法は定量・定性含めいくつかあります。
ここでは、代表的なシナリオ描写手法を3つご紹介します。
1.ユーザー行動ログ分析
ユーザー行動ログ分析とは、Googleアナリティクスなどのアクセス解析ツールを使って、ユーザーの行動を定量的に可視化する手法です。
アクセス解析ツールを使った単なるログレポートではなく、セグメント化されたユーザーの行動パターンを入口からゴールに向かうファネル上に表現したもので、実際にサイト内でどんなユーザーがどんな行動を取っていて、それがどれほどのボリュームがあるのかを視覚的に分かりやすく表現したものです。
この描写手法のメリットとしては、ログデータを元にしているため、現状のユーザー行動が如実に表れており、勝ちパターンとなる行動プロセス(ゴールデンルート)やボトルネックなどの課題を導き出せる点があります。また、それぞれのチェックポイントをKPIとして簡単に落とし込めるという点も利点です。
ただ、デメリットとしては、あくまでもWeb上での行動のみなので、サイト外の行動にKSFがある場合は活用できません。Webサイト内での行動に重点を置き、そこでの態度変容や行動フローを細かく監視していく運用体制においては、非常に有効な手法になるでしょう。
2.カスタマージャーニーマップ
定性的なシナリオ表現として最も代表的なものは「カスタマージャーニーマップ」です。
カスタマージャーニ―マップとは、ユーザーがあるゴール地点(例えば、ECサイトでの商品購入)に到達するまでの行動を複数のタッチポイントに跨って自由に描き、そこにユーザーの思考や感情を表現する事で、ユーザー行動をモデル化した描写手法です。
サイトリニューアル時の戦略策定や要件定義の際によく使われる手法ですが、そこからKSFを導き出してKPIに落とし込むという事も可能です。具体的には、ジャーニーを「タッチポイント(縦軸)」と「ファネル(横軸)」に分解し、各マス目に置かれた行動を指標に落とし込むというやり方です。
図4のように、ジャーニーマップと同じファネルステップでKPI(もしくは、microKPI)が設定されることで、それぞれの指標がどういう役割を果たしているのかを瞬時に判断することができます。
ただ、この手法の欠点として、ジャーニーマップで定義した行動を数値化するのが困難な場合があります。例えば、TVCMの視聴や交通広告の閲覧、友人などからのクチコミ情報の収集などは、データで表現しきれない場合もあるため、KPIに落とし込む段階で、どうしても制限がかかってしまうことは理解しておきましょう。
3.コンセプトダイヤグラム
「ユーザー行動ログ分析」や「カスタマージャーニ―マップ」に比べて、比較的すぐに作成でき、かつ特別なスキルが無くてもできるのが、この「コンセプトダイヤグラム」という手法です。
この描写手法については、元々はアナリストの清水誠氏が提唱したものですが、特に厳密な決まりは無く、ターゲットとなるユーザーがゴールに向かうプロセスにおいて、そのユーザーの具体的な行動や感情やタッチポイントなどをモデル化したものです。ワークショップなどで関係者が集まり、議論しながら作成を進めていくのが一般的と言われています。
表現方法としては、ゴールに向かうまでのそれぞれの行動や感情を矢印でつなげて、ユーザーゴールに向かうまでの道程を描くといった具合ですが、非常に自由度が高く様々な絵を描く事ができます。もし興味があれば、「コンセプトダイヤグラム」で画像検索してみて下さい。実に様々な形態で描かれており、自由度が高い事が判るでしょう。
実際にはこのモデル化されたものからKPIを炙り出していくのですが、カスタマージャーニーマップ同様、厳密にデータで表現できない行動や感情も出てきます。
ただし、KGIからKSFを導き出すための手法としては非常に有効なので、是非活用してみてはいかがでしょうか。
上記3つの手法の他にも、もっと簡潔にユーザーセグメントとそれぞれの行動パターンをエクセルなどの表形式で書き出して、それぞれの行動を数値化するという方法もありますし、やり方は様々です。
いずれの手法を採用するかについては、時間的制約や予算、サイト規模や戦略にもよりますが、どの手法にせよKSFを導き出すと共に、KPIリストを単なる指標リストに陥らせないため、また誰もが納得できる目標にするため、このような視覚化は非常に効果的と言えます。
次回は、KPIを活用するための手法についてご紹介します。

カスタマーエクスペリエンス事業部
シニアコンサルタント 山田直之( 記事一覧 )
事業会社において複数のWebサービスおよび新規事業立ち上げプロジェクトに携わった後、2008年より
Webアナリスト/コンサルタントとして活躍。2016年よりネットイヤーグループに参画し、Webビジネス
成功に向けたコンサルティングやデータを活用したPDCAサイクル運用支援などを行う。
Net Promoter(R) 認定資格者。Google Analytics個人認定資格者(GAIQ)。