アクセス解析にUX視点を取り込む5つのポイント

UXチームの小林です。
「データ解析とUXの連携」は、最近よく聞くテーマの1つですね。弊社でも、WebアナリストとUXデザイナーが同じプロジェクトにアサインされたり、情報交換したりする機会が増えてきました。
そこで今回は、「アクセス解析にどうUX視点を取り込むか」という点について考えてみます。
「アクセスデータは見ているけど…」の声
Web担当者であれば、ご自身でアクセスデータを調べたり、制作会社から提供されるアクセス解析のレポートを見たりする機会は多いと思います。Webサイトをリニューアルしたり、新しいサービスを開始したタイミングでは、施策の成否を知る上でアクセスデータはとても重要ですよね。
ところが実際には、以下のような悩みをお持ちの方がいまだに多いようです。
- 「アクセスデータは見ているけど、いまいちどこに課題があるか分からなくて…」
- 「アクセスデータってどの数値を見るのがいいんでしょうか…」
- 「分析結果をどう改善につなげたらいいのかが見えなくて…」
解析ツールが年々進化して、以前よりも高度な分析が誰でも手軽に行えるようになったはずなのに、Web担当者の悩みは今も昔もそんなに変わらない気がしますね。ではそんな悩みを持つWeb担当者が今すぐ取り組めて、簡単に成果につなげられる方法って何でしょうか?
ヒントは「UX」です。以下に5つのポイントを挙げてみたいと思います。
1. まずは「UXの仮説」を持つ
当然ですが、アクセスデータの数値をただ眺めたり、いくら綺麗なグラフを作っても、課題が見えてくるわけではありません。課題とは「あるべき姿と現状とのギャップ」なので、事前にあるべき姿が描かれていないと課題の見つけようがありません。ではアクセス解析に必要な「あるべき姿」とは何でしょうか?
それは、ユーザー体験(UX)に対する仮説です。
「こんなユーザーがこんなニーズでサイトを訪れるだろう。だからこんな風にサイトを使ってもらえば、ユーザーが最も満足するはず」といった仮説を持つことが分析を始める第一歩です。そのあるべきユーザー体験の仮説に対して、現状サイトでその体験が実際に起こっているかを数値で検証する作業が、アクセス解析の本来の姿と言えるでしょう。
冒頭のような悩みをお持ちの方は、解析ツールや分析レポートからちょっと離れて、ユーザーがこのサイトに来る本来の目的や実現したいことを手書きで整理してみることをおすすめします。
2. UXの仮説をシナリオで可視化する
UXの仮説を考えたらそれを可視化することが重要です。ユーザーのニーズや行動の仮説を可視化した資料を、ここではユーザーシナリオと呼びます(呼び名はこれでなくてもよいですが、個人的にはこれが一番分かりやすいので、ずっとそう呼んでいます)。
では「このユーザーシナリオって具体的にどう書けばいいの?」「どんな情報を含めたらいいの?」というのは、多くの方が悩むポイントですね。試しに「ユーザーシナリオ」というワードで検索してみてください。様々なアウトプットがヒットします。結論を言うと、ユーザーシナリオに唯一の正解はなく、プロジェクトのゴール、サイトの目的、シナリオ作成にかけられる期間などによって最適な形は変わってくると思います。
今回のように、アクセス解析で活用でき、誰でも手軽に作成できることが条件であれば、最低限以下の3つの項目が含まれていればOKだと思います。
- シナリオの名称と簡単な説明
- ユーザーのニーズ・行動
- ユーザーが見るコンテンツ・画面
例えばこんな資料です。

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最初はこのくらいの粗さで全然問題ないので、ぜひ担当サイトのユーザーシナリオを作成してみることをおすすめします。視覚化する事で想像以上に頭が整理され、思考がクリアになるはずです(上司からも、「おっ!ちゃんと考えているな…」と思われるに違いありません)。
ポイントは上段の「ユーザーのニーズ・行動」と下段の「コンテンツ・画面」を縦の時間軸で整理し、双方に連番を振ることです。これにより、「このニーズが発生した時にこの画面を見る」という対応関係が明確になり、アクセス解析で利用しやすくなります。
「シナリオはいくつ作ればいいですか?」という質問も多いですが、一概にいくつという正解はありません。1つに絞りきれない場合は、複数用意して「メイン」と「サブ」で分けてもよいでしょう。ただし多すぎると収拾がつかなくなるので、通常は1つか2つ、多くても4つぐらいに留めるのが良いと思います(4つというのはあくまで私の経験則です。ターゲットユーザーを2軸のマトリックス(2×2の4象限)で整理することが多いので、それぞれにシナリオを作る場合を想定した数字でもあります)。
3. シナリオから測定指標を抽出する
ユーザーシナリオができたら、ここから分析に必要な測定指標を決めていきます。アクセス解析が「シナリオの仮説を検証する作業」であることを考えると、指標は「ユーザーシナリオで定義した行動が実際にどれだけ発生しているかを数値で確認できる指標」を選ぶべきです。ユーザーシナリオの画面フローを、一つ一つ指標に置き換えていく作業とも言えるでしょう。
サンプルとして、リアル店舗への送客を目的としたサイトで、ユーザーシナリオに測定指標をプロットした例を示します。

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ビジネスのKPI(Key Performance Indicator :重要業績評価指標)もあれば、それらもプロットします。こうしてユーザーシナリオ上に必要な指標をすべてプロットし、「仮説検証をする上で漏れがないか?」「今取れていないものはどれか?」といった検討を重ね、指標を精査していきます。また特に重要な指標は、このタイミングで目標値も決めておくのが良いです。分析時に数値の良し悪しを判断しやすくなるためです。
一点、指標選びの注意点として、アクセス解析で取得できるデータは、解析ツールの種類やタグの埋め込み状況にも左右されるため、プロットした指標が問題なく測定できるかを事前に確認しておくこと(測定可否のフィージビリティチェック)も必要です。
4. 数値の意味をUXやUIの視点で考える
測定指標が決まり分析を開始すると、すぐに数値を加工したり、綺麗なグラフやチャートを作りたくなってしまいますよね。しかしその前にやるべきことがあります。
数値の「意味」をユーザー体験やUIの視点から洞察することです。
このプロセスが無いと、改善への示唆が何も得られない無味乾燥なレポートになってしまうでしょう。では、具体的にはどんな作業をすべきでしょうか?言葉でうまく説明しづらいので、イメージを示します。

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アクセスデータはユーザー行動の「結果」なので、その「プロセス(ユーザーと画面とのインタラクション)」に注目します。例えば画面Aに関する数値であれば、
- ユーザーは何を求めて画面Aに来たのか?
- 画面Aでどんな情報やUIを見て、何を思ったか?
- 結果としてなぜ○○○というアクションをしたのか?
といった事を、ユーザーシナリオや実際の画面を見ながら考え、数値の「意味」や「理由」を洞察していきます。「離脱率が高い」「購入画面への遷移率が低い」など、課題と思われる箇所は、特に上記の洞察を丁寧に行うべきです。最終的には、数値の理由を画面の要素に落とし込み、「どの画面の何が問題なのか? (掲載情報? UI? デザイン? )」をきちんと特定することが、サイト改善につなげるポイントです。
この「数値の意味を考える」作業は、解析全体の成果を決める上で、最も重要な作業です。最初はややハードルが高いかもしれませんが、周囲のメンバーの知見も借りながら、ぜひトライしてみることをおすすめします。
5. 改善レポートはUXが「主」、数値が「従」という関係で書く
アクセス解析のレポートと言えば、画面の中央に大きな「グラフ」、その上に少量の「コメント」というのが一般的なイメージかもしれません。しかしこのようなレポートは、PVやCVRなど特定指標の増減や推移を知る目的であればよいですが、「サイトのどこを改善すべきか?」を知ることはできません。
では、サイト改善につなげやすいレポートはどう作ったらいいでしょうか?サンプルを示します。

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ポイントは以下の通りです。
- 画面単位でUXの課題と数値データを混ぜて記載する
- 画面キャプチャで課題箇所を視覚的に伝える
- UXの課題が「主」、数値が「従」と割り切る
ユーザーシナリオを元に課題と改善を明確にするレポートでは、必ず該当画面を示し、UX視点からの課題を「主」、数値データを「従」と位置付けて書くのが良いと思います。
よくある数値とグラフが主役のレポートでは、数字に強くない方や数字を扱わない業務の方には敬遠されてしまうかもしれません。しかし数字の意味をきちんと考察し、課題箇所を明確にしたレポートであれば、どのような方でも画面ごとの課題を把握しやすくなり、納得感も得やすいと思います。より多くの方にレポートを見ていただく機会が増えれば、そこからさらに新しい議論が誘発されるなど、本当の意味で価値があり、成果につながるレポートになるのではないかと思います。
おわりに
今回は、アクセス解析をUX視点から考えてみました。
記事の内容は、過去に社内のWebアナリストとディスカッションした内容が元になっています。書いてみて改めて感じたことは、アクセス解析が非常にUXデザインのプロセスに近いということでした。
今後データ解析とUXデザインの垣根はどんどん無くなっていくと思います。今回ご紹介したようなデータ解析とUXの連携もごく当たり前に行われるでしょう。いずれ、WebアナリストとUXデザイナーという職能は融合し、2つが分かれていたことを懐かしく思う日が来るのも近いのかもしれないなあと思いました。

デジタルマーケティングプロデュース事業部
ソリューションデザイングループ UXチーム
UXデザイナー 小林 真二( 記事一覧 )
2005年にネットイヤーグループに入社。インフォメーションアーキテクト/UXデザイナーとして、コーポレートサイト、ECサイト、グローバルサイトなどの情報設計、UX設計、UI設計を数多く手がける。
UXチームについて
クライアントビジネスの課題の本質や、誰も気づかなかった課題を、ユーザーの行動データやインタビュー、経験知から導出・発見。その課題解決に向けて、ユーザー心理・行動に沿った最適なシナリオを描き、それを具現化するコンテンツや機能、ソリューションを設計(デザイン)していくチームです。経験者絶賛募集中!