人間観察のすすめ ~イノベーションのヒントを彼らが教えてくれる~

UXチームの高森です。
すっかり静まった夜のオフィスで、セブン-イレブンで買ったいつものコーヒーを飲みながらこのブログを書いています。
ご存知でしたか?このコーヒーのフタ、飲み口のつまみを反対側に倒せば固定出来るんですよ!


(え?知ってましたって…?)

皆さんはもしフタをこんな風にやぶっている人を見かけたらどうしますか? 黙って目をそらしますか? それとも「こうやって飲むと便利ですよ」と教えてあげますか? そんなときは是非「つまみを倒さずに引き千切ったのはどうしてですか?」と聞いてみてください。
爆発的な売上アップや画期的な製品・サービスを生み出すイノベーションの種が隠されている可能性だってあるかもしれません。
今回は日常にあふれるイノベーションのアイデアについて書いてみたいと思います。
1. コーヒーをより深く味わうためのテイクアウト用のフタ
「Viora lid」
またフタの話に戻ります。これはギズモード で紹介されていた「コーヒー本来の美味しさを味わえる」というフタです。まるで宇宙基地の入り口みたいな美しい形をしていますね。それでいて決して無機質な冷たい感じはせず、触ると土の風合いのあるマットな質感を感じられそうな気がします。
さぞかし美味しいコーヒーが飲めるんでしょうね。
引用元: The Viora Lid
このフタには以下のような特徴があるそうです。
- 口に入れるコーヒーの量をコントロールしやすい
- スキマからコーヒーのアロマを堪能できる
- 空気も一緒に吸うので、口に入る “ひと口”の温度を下げてくれる(火傷しない)
★ヘリの内側が傾斜している
- 余分に出たコーヒーをカップへ戻す
★素材のこだわり
- リサイクル可能でプラスチックの臭いがしない
この新しいフタを見た後では、特に意識していなかった普段のフタの課題がよく見えてきませんか? フタをやぶって飲んだ方が美味しい気がしたのは、やぶれた穴の形が、口に流れ込む一口を適温に冷まし、スキマからコーヒーの香りを堪能するにはちょうどよかったからかもしれません。“想定外の行動” から「なぜ?」を辿ると、こんな素敵なイノベーションに結びつく可能性があるという例でした。
2. 万が一のときも大事なものを守ってくれる「ネックストラップ」

もう何年も前のことになりますが、同僚のネックストラップがボロボロに千切れかけているのを見かけました。そこで私は「千切れそうだよ」と教えてあげたのですが、すると意外な返事が返って来たのです。
万が一回転ドアなどに引っかけて首が締まってはいけないので、いつでも千切って逃げられるように、わざとギリギリのところまで切り込みを入れているというのです。
ネックストラップにより首が締まる危険性など想像したこともなく、驚いたのを覚えています。普段よく鍵や携帯の置き場を忘れ、その度に周りから「大事なものは首から下げておくように」と呆れられていた私にとって、ネックストラップは大事なものを失くさないための切れてはいけない紐という存在でしたから。

その小さなパーツが、10kgという絶妙なバランスで大事なものを失くさないようにし、万が一のときには大事な命を守る役割をはたしてくれているのです。
その同僚のニーズが製品改善に影響を与えたとは思いませんが、“想定外の行為”に目を向けることで、まだ気付かれていない潜在リスクの発見につながるかもしれません。
3. 恥じらいと犯罪をエンタメに変える「スカートの下の劇場」
最後に、弊社UXチームで行った「あったらいいな」を考えるワークショップで実際に私が考えたアイデアをご紹介します。
女性なら階段を上るときにスカートの中が丸見えにならないか気になるものです。若い頃は手で押さえていたのですが、最近では「誰も覗かないよ」と言われそうで、あからさまに手で押さえるのではなくバッグで隠すようにしています。
男性にとっては、目の前に女子高生の短いスカートがちらつけば、見てはいけないと知りつつも心はそちらの方を向き、視線はそれを悟られないようわざとスマホ画面に向けるのではないでしょうか。
先日も、元タレントが駅でスカートを盗撮した容疑で逮捕とニュースになっていましたが、本人は否定しているという情報もあり真相はよくわかりません。このような環境では、だれでも魔が差す可能性はゼロではありませんし、逆に冤罪だって起こりかねませんね。
この状況を救うのが「スカートの下の劇場」です。
これは女性の靴のかかと部分に装着するアクセサリーで、リボン型などの形状をしています。高低差検出センサーと、プロジェクションマッピング機能を内蔵しており、階段を上るなど一定角度以上の上昇を検知すると、斜め上に向かって(つまりスカートの下に向かって)事前に設定された映像が映し出されます。
スカートの下の劇場で、蝶の大群が羽ばたいたり、白い木馬が高速回転したり、EXILEが踊ったり。目も眩むような幻影映像を映し出し下着を隠し去ることで、「恥じらいを、犯罪を、エンターテイメントに変えてしまおう」というのがコンセプトです。
「これが本当に世の中を救うのか?!」と思われる方もいらっしゃるでしょうし、また私のことを「いつも真面目な顔して、こんなことを真剣に考えているのか?!」と思われると仕事上困りますので、あくまで発想のトレーニングであることを補足しておきますが、なぜこの例をご紹介したかというと、“課題”を解決すべき問題ととらえるのではなく、“別の新しい価値に変えてしまう”という「逆転の発想」もイノベーションを起こす一つの方法であると思ったからです。
ちなみに「スカートの下の劇場」というのは、1989年にベストセラーになった、社会学者 上野千鶴子教授の本のタイトルです。まだ子供だった私は、大人になるとスカートの下にどんな劇場が出来るのだろうか……とTVで聞いたそのタイトルに妙な胸騒ぎを感じたものです。
(以下、文中より抜粋)
女が下着を選ぶ基準は二つあるように思える。一つ目が男にどう見えるか(セックスアピール)、二つ目が自分自身にどう見えるか(ナルシシズム)である。
(略)
セックスアピールという基準を選ぶ時、女はすでに自分のボディを自分自身で客体化しているのだ。女は、男たちの知らないところで、自分自身のボディにナルシスティックに固着しているように見える。
(略)
男との出会いが予期される日でも、そうでない日でも、つまり誘惑されもせず、マンホールから吹き上げる風にスカートをめくりあげられることもなく、組んだ脚の間を向かいの席からのぞかれることがなくても、女はやはりその日どんな下着をはいていこうか迷う楽しみを味わう。観客のいないスカートの下の劇場で、女だけの王国が成立する。
女のボディについてのセルフ・イメージが持つこの特権的なナルシシズムについて知らなければ、女の下着についての謎は解けないような気がする。
20数年経った今、女性はもう一つの客体化したセルフ・イメージを持ち始めたのではないでしょうか。いわゆる「世間にどう見せるか(ソーシャルメディアにおけるアイデンティティ)」です。
もはや観客がいない時代は終わり、スカートの下から飛び出した蝶は、SNSの写真を飾るアイコンとなって、「見せてはいけない/見てはいけない」ものから、「自分を表現し、人々の目を楽しませる」ものへと変化するような時代が来ているのではないでしょうか。
おわりに
一部バカバカしいことも書きましたが、“想定外の行為”に注目したり、世の中に溢れている“問題”に対して解決方法を考えるのではなく “別の価値のあるものに変える”という「逆転の発想」で、たとえ数年に一度の画期的なイノベーションは生み出せないにしても、日常生活をもっと素敵に変える「新しい価値」を見いだせるのではないかと思います。
人間観察、オススメですよ!

デジタルマーケティングプロデュース事業部
ソリューションデザイングループ UXチーム
UXデザイナー 高森 千恵子( 記事一覧 )
2011年、ネットイヤーグループ株式会社に入社。インフォメーションアーキテクト/UXデザイナーとして、コーポレートサイト、オムニチャネルECサイト、ブランドコミュニケーションサイトなどのUX/UI/情報設計に携わる。
UXチームについて
クライアントビジネスの課題の本質や、誰も気づかなかった課題を、ユーザーの行動データやインタビュー、経験知から導出・発見。その課題解決に向けて、ユーザー心理・行動に沿った最適なシナリオを描き、それを具現化するコンテンツや機能、ソリューションを設計(デザイン)していくチームです。経験者絶賛募集中!