事例 小田急百貨店(ディープインタビュー)

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リモート接客サービスは従来型のリアルな対面接客の置き換えではなく、もうひとつの新しい接客のカタチ

創業から60年以上の歴史を誇る老舗百貨店である小田急百貨店様は、新宿店においてオンラインでも高品質な接客体験ができる「リモート接客サービス」を導入しています。
店舗に出向かなくても1対1の接客でじっくり商品の相談ができたり、離れた場所にいる人と一緒にお買い物を楽しんだりすることができる
、コロナ禍ならではのデジタル接客サービスの導入をネットイヤーグループが支援いたしました。

今回はサービス導入を担当した経営企画部統括マネジャーの三枝さまと、システム面から売り場をサポートしているデジタル戦略推進部マネジャーの河合さまにお話を伺いました。

大切なことを失うことなくデジタルへの変革を進める難しさに直面

まずはじめに百貨店業界を取り巻く現在の状況から教えてください

※撮影時のみマスクを外して取材を実施しています。
みなさんもご存知のとおり百貨店業界全体もマイナストレンドが続いている中で、コロナ禍によってさらに消費環境の変化が起こっていることを前提に、小田急百貨店としても大きなデジタル化への改革が求められている状況でした。

また、新宿駅西口の再開発に伴って小田急百貨店の新宿店は本館での営業を終了し、2022年の10月以降は新宿西口ハルクにて営業を継続する状況もあります。その意味では同業他社さんと比較しても、より一層の改革が必要であり、またそのハードルも非常に高いという厳しい環境に置かれていました。

その状況を受け、DXを推進する部門としては既存の商売のあり方にとらわれずデジタル化を推進し、未来型商業(商売のデジタル化)への転換を急いでいる状況でした。


小田急百貨店様は、お客様個人に合わせた、きめ細やかな接客が強みだと思うのですが、リアル(対面)での接客の強みや良さを教えてください

経営企画部マネジャー 三枝さま
お客様の多様なニーズに寄り添えること、個別の相談事に対応できること、また相談時にはお客様も気付いていない新たなニーズを引き出しつつ、違った確度からご提案をして顧客満足をさらに高めていく、という部分は小田急百貨店の強みだと思っています。

最近はお客様もネットで調べたりして商品には詳しいですし、私たちとしてはネットには書いていない商品知識の提供や、レビューだけでは拾うことが難しい商品の使用感であったり、というリアルな商品体験をシェアすることができる、ということも私たちの強みだと思っています。

もし、小田急百貨店にお望みの商品がなければ、ライバル店をご紹介したりということも場合によって行ったりもします。お客様に満足していただけることが何より大事だと思っていますので、その辺りは小田急百貨店ならではの特徴的なカラーなのかもしれませんね。

トレンドにとらわれず、あくまで顧客視点での課題解決に注力

サービスの導入以前には、現場にはどのような課題があったのでしょうか?

かなり早くから非対面・非接触での接客ツールのあり方を模索していましたが、コロナ禍になり始めたころから、現場でも同様のニーズが上がってきており、当時は各売り場のスタッフが既存のデジタルツールなどを使って独自でオンライン接客を行っていたところもありました。

そうすると色々なツールが存在することになり、将来的には混乱することも想定されましたし、実際にどのようなオンライン接客が行われたかということがシステム上で把握・管理できないという課題や、テナントの自社ECに送客されてしまい小田急百貨店として販売機会の損失になっていたという課題もありました。 やはり小田急百貨店として統一化されたツールと導線を整備することが喫緊の課題であることを認識しました。

課題解決の方向性としてはどんなものがありましたか?

実はコロナ禍になる数年前から接客そのものをデジタル化していくという構想があり、どうやって実現しようかと以前から検討していました。

その中で1対nのライブコマースというアイデアもあったのですが、やはり1対1のきめ細やかな接客は私たちの強みでもありますし、とても大切にしていきたい部分でもありましたので、デジタルを使ってこれらを実現できる方法を模索していました。

また、いきなり様々なことを一気にデジタル化してやりすぎてしまうよりは、まずは現場のニーズをしっかり拾ったうえで「1対1の接客」をデジタル化し、まずはその分野でしっかり実績を作っていこうという方向性になりました。

アプリではなくブラウザ上で動くツールの導入ですがそれはなぜでしょうか?

アプリの導入も選択肢の一つとして検討していましたが、このサービスにおいてはアプリそのものに関して、ダウンロードまでの手順が若干増えることも想定されたため、私たちの現状ではステップ的にハードルが高いと感じていました。

この段階からも、ネットイヤーグループさんにご協力をいただき、スマートフォン・PC問わず、すぐに動作するWebブラウザを採用する方向性のご提案をいただきました。
既存のツールを導入すると私たちの業務フローに完全にマッチしなかったり、接客における私たちのこだわりを実現できなかったりするため、1からオーダーしてシステムを実装したといった背景があります。

妥協せずに「いちばん大切にしたいこと」をデジタル環境下でも実現

サービスの導入にあたって準備面で何か気になることはありましたか?

小田急百貨店の業務フローに沿ったシステムを構築するにあたり、現場の責任者から意見を抽出しながらリモート接客の理想の業務フローを作り上げるのに一番苦労しました。

売り場によって異なる意見が複数ありましたが、業務フローを再構築する部分もネットイヤーグループさんに入り込んでいただき、様々あった要望を最大公約数としてまとめ、全体最適化に向けて一緒に業務フローも作っていただきました

おかげさまで現場からの評判も上々になっています。また、準備期間は短かったのですが、サービスを開始するタイミングのリクエストにもしっかり応えていただきました。

私たちの事情にフレキシブルに対応し、システム面の準備も比較的短納期で行っていただけた
ことも導入の大きなメリットになっています。

機能面で1番のポイントやこだわった部分はどんなところでしょうか?

やはり予約機能ですね。以前、ある店舗で独自で使用していたオンラインツールがあったのですが、オンライン接客の予約を電話で行っていたため、そのアクションと実際のオンライン接客の回数を含めると2度手間になっていました。

今回、リモート接客の「予約」も「当日の接客」もすべてオンラインで完結できる仕様にしていただけたことはとても大きかったですね。

対面での接客をデジタル上でしっかり再現するためには、もちろんビデオ通話機能も必須でしたし、商品によっては映像だけでなく文字でお伝えした方がその良さが伝わりやすいというケースもありましたので、チャット機能も追加していただけました。

結果的に私たちの多様な要望に対してフルオーダーに近い仕様に仕上げていただきました。

百貨店ならではの「お買い物の顧客体験」の設計も再構築

サービス導入に際して顧客体験の設計もリデザインされたとお伺いしました

「リモート接客サービス」の売りの一つなのですが、たとえば、おじいちゃんおばあちゃんがお孫さんにランドセルを選んであげるというシーンでは、おじいちゃんおばあちゃんの家とお孫さんの家をオンラインでお繋ぎしてから私たちが売り場で接客を行ったらとても楽しいし、小田急百貨店としても新たな買い物体験と新しい価値を提供できるんじゃないか?と考えました。1対1の接客だけでなく1対2以上の接客のケースも想定し、その体験価値の向上も実現できるツールに仕上げていただいています。

どうしたらお客様に喜んでいただけるのか?なぜこのツールを提供するのか?という顧客体験設計(ユーザーエクスペリエンスデザイン)の初心にも立ち返ることができました。

私たちと一緒に悩み、一緒に考え抜いてくれたことは非常に嬉しかったですし、とてもありがたかったですね。

様々なパッケージングサービスやデジタルソリューションという選択肢がある中で、当社の提案を受け入れていただいた具体的な決め手は何でしょうか?

接客のデジタル化を検討している中で、やはり私たちは既存のツールやシステムありきの話から始めるのではなく、何より「お客様により良い買い物体験をしてほしい」と考えていました。その実現のために何ができるのかというところからコンセプトがスタートしています。

この考え方に深く共感し顧客体験設計を構築しながら、私たちが作りたい形に作っていただけるというご提案はとても魅力的でネットイヤーグループさんにお願いする大きな決め手となりました。

従来型のリアルな接客の代わりになるものではなく、新しい接客手法の中のあるべき姿のひとつ、という気付き

「リモート接客サービス」の仕組みがもたらすメリットを教えてください

デジタル戦略推進部マネジャー 河合さま
現在、このサービスは新宿店だけの導入ですが、今後は町田店にも導入する計画もあります。

たとえば、新宿店には商品は無いが町田店には在庫があるのでこのツールを使ってお客様と町田店の売り場スタッフをすぐにお繋ぎしてお客様にご提案することができますし、ツールの運用の仕方や応用の幅はとても広いと思っています。

これまでは「来店していただく」ということだけがお客様との接点でしたが、これからはリモート接客サービスを使って、小田急百貨店が「いつもそばにいる」という距離感を実現できると考えています。

これは小さな一歩かもしれませんが、そういった意味では私たち小田急百貨店なりのDX(デジタルトランスフォーメーション)へ向けた大きな第一歩だと思っています。

サービス導入直後の売り場スタッフの反応はいかがでしたか?

とても良いですね。各ショップには私たちから「リモート接客サービス」の使い方の部分での教習も行っているのですが、スタッフの方は若い方も多くITツールに慣れている方が多いので、比較的スムーズな導入になりました。

イチからツールを開発するとなると、既存のサービスやツールより質が下がるのではないかという声も正直あったのですが、いざ導入してみるとリモート接客に必要な機能がしっかり実装されていて「むしろ既存のツールより使い勝手が良いですね」という声が多くありました。

デジタル環境下だからこそ実現できた具体的な例を教えてください

リモート接客サービスの導入によって、小田急百貨店では「接客のデジタル化」と「決済(注文)のデジタル化」が可能となりました。接客だけでなくお客様との多面的な接点を仕組みとする「小田急リモートサービス」というソリューションを構築できたことは、今後の小田急百貨店のDXの在り方そのものに大きな影響をもたらしていく将来性を感じています。

私たちはリモート接客をリアルな接客の代わりになるものとは捉えていません。

リアルの接客でどんなことがお客様に提供できる価値なのか?それをオンラインの形でどのように実現していくのか?ということを突き詰めることが大切だと思っています。1人でするショッピングでも、誰かと一緒に商品を選ぶショッピングの楽しさにおいても、お客様にとって最良な顧客体験の在り方をこのサービスを通して実現していただけたのは本当にありがたかったと感じています。

利用者が教えてくれたリモート接客の想定外の効果とは

実際に「リモート接客サービス」を利用されたお客様の反応はいかがですか?

小田急百貨店 新宿店本館4階
creatorie(クリエタリエ)にて撮影
ある売り場での出来事だったのですが、離れた場所にいる2人のお客様がリモート接客サービスを利用して、その場にはいない先輩へのプレゼントを探しているというご相談がありました。

お二人とも熱心にプレゼントを探されていて、接客を担当しているスタッフもその熱心さに共感し、オンライン特有の空気感も相まってかなり入り込んで接客をしたところ、大変ご満足されたというエピソードがありました。


このお客様は当初、テナントのECサイトで購入を検討していたそうですが、小田急百貨店のリモート接客サービスの存在を知り、試しに使ってみたところ、とても丁寧な接客だったのでそのまま購入を決めた、ということでした。また、別のケースではリアルの接客時よりも、リモート接客サービスを活用した場合は購入の平均単価が2倍以上になったというデータもあります。お客様と販売員だけのオンライン特有の世界観は接客心理も購買心理も変化させるのかもしれませんね。

今後のご活用イメージを聞かせてください

リモート接客サービスの新宿店での実績を踏まえ、町田店にも拡大導入していくことを検討しています。またすでに、3月からは小田急百貨店のギフトサロンでもリモート接客サービスを開始しています。ここではプロの販売員の接客知識がダイレクトに反映されますので、百貨店の販売員だからこそできるきめ細やかな接客サービスをギフトサロンでも提供し、新たな顧客接点を持たせていきたいと考えています。今後は購買履歴を活用した顧客データの管理や活用にも手を広げていきたいですね。

今後の展望を教えてください

小田急百貨店 河合さま・三枝さまと弊社加藤・守口
今後はリモート接客サービスが存在してくれることで、ブランドの直営店と小田急百貨店のお客様をつなぐことが可能になるので、活用の仕方によって様々な可能性を秘めていると感じています。

また、将来的なアイデアですが、今後は売り場のイベントをオンラインでつなぎ、商品の紹介「モノの提案」だけでなく、その商品で何をするかという「コトの提案」を商品の使い方とあわせてわかりやすく提案することで、その商品の魅力や百貨店自体の魅力をさらに際立たせるということも考えています。

リモート接客サービスは、活用の仕方によって様々な可能性が開かれていると信じていますので、今後さらに期待をしています。

プロジェクト情報

クライアント

株式会社小田急百貨店

小田急百貨店公式サイト
小田急百貨店リモート接客サービス

プロジェクトメンバー

PM:加藤 弘和
PR/AM:守口 大貴
UXD:仙崎 萌絵
AUXD:近藤 愛斗、狭間 柚里香

略称について

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