事例 山形県酒田市
市民と市役所のOne to Oneを実現
――マイナンバー連携を見据えた市民マイページ「さかたコンポ」プロジェクト
ネットイヤーグループは、山形県酒田市役所と市民一人ひとりをつなげる市民マイページ「さかたコンポ」の戦略策定から開発までを伴走支援いたしました。
このサービスは、酒田市の公式ホームページとスマートフォンの通信アプリLINEを連携させ、市民はあらかじめ属性情報を登録しておくことで、自分に必要な情報をいつでもスマートフォンで受け取ることができます。また、申請内容に応じてその場で手続きすることも可能です。
“いつでもどこでも使える”ことを目的とし、2023年4月から提供を開始した「さかたコンポ」は、スマートフォン特化型の行政サービスとして国内にあまり例がなく、"オンライン市役所" として注目を集め、多数のメディアに取り上げられています。
酒田市が抱えていた課題
2020年10月、市はデジタル変革戦略室を新設。翌年3月には、デジタル技術の活用で「賑わいも暮らしやすさも共に創る公益のまち酒田」実現に向けた「酒田市デジタル変革戦略」を発表しました。その戦略の柱とするのが住民サービス・行政・地域それぞれのDXです。
その背景には、住民の高齢化や新型コロナウイルスの感染拡大があります。市役所や支所などへ出向くのが困難な住民が増え、さまざまな行政課題が浮き彫りになってきました。
・利用者の属性や状況に応じた住民サービスの広報が必要
・サービスを受けるための煩雑なルールや手続きを解消したい
・窓口へ行くことが困難な住民に対する手続き方法を拡充したい
・従来からの民間サービスと行政サービス間の格差を解消したい。
これらの解決に向け、酒田市が選択したのは民間企業とのパートナーシップです。私たちは「酒田市デジタル変革戦略」策定の段階から支援メンバーとして参画し、デジタルサービスを活用した市民生活の利便性向上を提案。公募型プロポーザルの結果、引き続きネットイヤーグループが参画する形で、デジタル変革に関するプロジェクトがスタートしました。
行政サービスを身近にする「さかたコンポ」の特徴
LINEから直接マイページにアクセス
「さかたコンポ」を利用したい市民は、まずスマートフォンの通信アプリLINEで酒田市を友達に追加します。次に、リッチメニューから「さかたコンポ」を選択し、居住地、生年月日、性別、家族情報、関心事などの情報を入力すると登録が完了します。そして「さかたコンポ」のマイページと連携させることで、個人に必要な情報や手続きが確認できるようになります。
必要な手続き・興味のある情報を自動表示
「さかたコンポ」のトップページには、利用者の属性に応じた手続きや情報が表示されます。手続きと健康情報は、トップページの上部に件数が表示され、さらに、おすすめの情報やゴミ出しのスケジュールなど、さまざまな便利情報が提供されます。
そのままオンライン手続きへ。「やることリスト」の保存も
質問にタップ操作で回答することで、必要な手続きを確認できます。オンライン申請が可能であれば、直接申請ページに移動して手続きを進めることもできます。対面での手続きが必要な場合は、必要な場所や持参物を確認し、後で参照したい情報や、後ほど実施したい手続きは、「やることリスト」にタップ操作で簡単に追加、保存できます。
LINEリッチメニューとチャットボットの活用
酒田市のLINEリッチメニューは、利用者の属性に合わせて最適化されます。情報を求める市民は、メニューをタップし、表示される質問に対して回答することで、必要な情報を得られます。また、チャットボットを用いているため、LINE上に特定のキーワードを入力することで、関連する情報の提供を受けることも可能です。
欲しい情報だけLINE・メールで取得できる
受信設定で、情報を受け取る必要のない項目をオフにすれば、通知は届かず、欲しい情報だけ受け取ることできます。
「さかたコンポ」を実現するためのネットイヤーグループの提案
目的実現のためのアプローチ
まず実施したのが、酒田市の調査です。酒田市公式サイトや公式LINEの行動分析などから、ユーザーの閲覧目的は何か、情報取得はスムーズだったかなど、利用状況を詳しく調査。さらに実際の行政サービスの窓口利用状況や県・市が公開している統計データも対象とし、多角的な分析・仮説立てをしています。
それら調査・分析結果をもとに市民にとって理想の体験を設計した上で、市民ポータルおよびマイページ、
LINEリッチメニューが提供するUXをデザインし、プロトタイプのUIを作成。利用者である市民目線でのユーザーテストを実施しました。
ターゲットとして設定したのは以下のユーザー層です。
A:30代の子育て共働き家庭
B:シングルもしくは子どもが独立した40~60代の市内在住者
<注力ターゲット層の整理>
私たちは酒田市の公式サイトでご協力頂けるテストユーザーを市民から募り、日頃の自治体サービス利用に関するインタビューを実施しました。その後「LINEのプッシュ通知で台風情報を受信した」「子どもが生まれた」「引越しをした」等のテーマに沿って、ユーザーが必要な情報を取得するまでにどのような操作をするかをプロトタイプで検証しました。
こうしたユーザーテストを踏まえ、誰もが手軽に使える「さかたコンポ」の実現に向けた、ネットイヤーグループは以下を提案しました。
市役所と市民のコミュニケーションのあるべき姿の設計
市役所からの一方的な情報提供にとどまらず、市民が日常生活で日ごろ直面する課題を迅速に解決できるようなユーザーエクスペリエンス(UX)を設計しました。これにより、必要とするサービスやサポートを即座に取得し、利用できるようになります。また、一人ひとりに合わせてカスタマイズが可能な市民マイページを通じて、それぞれのニーズに応えるサービスを提供します。
さらに、市民の不安や懸念を早期に察知し、解消するだけでなく、市民の声を反映して「さかたコンポ」を継続的にアップデートすることも想定しています。私たちは、市民と一緒に「さかたコンポ」を改善させることで、酒田市に対する愛着や関心を深めることを目指しています。
LINE リッチメニュー の UI 制作
使いやすくて気軽に利用できる操作画面、温かみ・親しみやすさ・信頼性のあるデザインを提案。ユーザーテストを重ね、高齢者でも見やすい文字やカラー、ボタンサイズを採用しています。
素早く目的達成するための導線設計
利用者の属性に適合した情報や手続きを提供するだけでなく、簡単なステップで素早く目的を達成し、次の行動へと進めるような操作画面を設計しました。そのために、広範な行政サービスと手続きをリストアップし、それらがオンラインで完結可能かどうかを調査し、カテゴライズしました。そして、利用者の行動パターンに合わせて設計しています。オンラインでの手続きが可能な場合は、スムーズな遷移を提供し、対面での手続きが必要な場合は、必要な持ち物や担当窓口の情報を提供しています。
さらに、LINEとチャットボットの機能を最大限に活用した対話型のフローを通じて、従来の検索方法よりもスムーズに目的を達成できるように工夫しました。
既存ツールとの認証連携及び基盤の設計・構築
システムの入れ替えを避けつつ、目標を達成できるように、既存のツールを最大限に利用した連携を提案し、その前提で基盤の設計及び開発を行いました。このアプローチでは、LINEを始めとする、酒田市が以前から使用しているクラウドサービスやコンテンツ管理システム(CMS)とも連携しています。それにより、コストを抑えながら、利用者ごとに特化したサービスの提供が可能になっています。
「さかたコンポ」今後の展開
酒田市民に寄り添いながら実現した「さかたコンポ」は、市民からの反響を呼び、様々な意見が市へ寄せられています。これら貴重な市民の声を反映し、市民と共に「さかたコンポ」をさらに使いやすく改善していくことを目指しています。また、将来的にはマイナンバーとの連携も検討してまいります。
今後もネットイヤーグループは、酒田市への持続的かつ継続的な伴走を通じて、「酒田市デジタル変革戦略」の推進に努めてまいります。
お客様の声
ネットイヤーグループ株式会社様からは、酒田市が取り組む市民マイページ構想の実現に向けて戦略策定からシステム開発まで伴走支援いただきました。
これまでの酒田市は、特定の市民サービスの情報をホームページや広報誌で市民全員に周知し、市民は複雑な条件を自分で読み解いて対象であるかを判断し、手続きを行うというプロセスで実施してきました。酒田市が目指す市民マイページ構想とは、そのサービスを必要としている方を属性や興味から特定し、その方に関係する市民サービスを通知することで、複雑な条件判断なしに手続きを行っていただくことができるコミュニケーションにより実現されるものです。
この実現に向けて、ネットイヤーグループ様からは、酒田市がすでに使っていた各種デジタルコミュニケーションツールの現状分析、市民にとっての理想の体験の設計、市民とのあるべきコミュニケーションの姿の設計、導線やUIの設計、システム開発まで、高い専門性をもってご協力いただきました。時にそこまで厳密に行う必要があるのかと思えるほどのこだわりが、その後の検討過程で重要になってくるなど、ネットイヤーグループ様が持つ豊富な知見がプロジェクトを遅延なく進めることにも大いに役立ちました。
酒田市が提供している「さかたコンポ」は、行政サービスの向上を目指して更なる発展を続けていきますので、ご尽力いただければ幸いです。
酒田市 デジタル変革戦略室